Don't Let it Slip Away

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中学校に上がったばかりのころ。

それまでずっとたったひとりで読書を続けてきたミーに

おなじく本好きな友達ができた。

学校から帰って着替えてから待ち合わせて

駅前のバースキンロビンスでアイスクリームを食べて

それからのんびり歩いて図書館に行った。

それぞれの選んだ本を抱えて帰ってきて

そのまま彼女の住む豪邸にお邪魔しておしゃべりをした。

たったそれだけのことなんだけど

ミーにとっては新しい大きな大きな世界がひらけた。

彼女は新井素子さんの小説をこよなく愛していて

ミーはそれでコバルト文庫の存在を知り

そのころ、もうのりのりで書きまくっていた

おそらく日本人の作家でもっとも才能のある方のひとり

氷室冴子さんの作品群に出会うことができた。

それは、それまで海外文学しか読んでいなかったミーにとって

衝撃的ともいえるほど大きな収穫だった。

日本人でも、こんなに素晴らしい書き手がいるのかって

目も覚めるような気分で、どっぷり氷室ワールドにのめりこんだ。

彼女の住んでいた家は一族が広大な土地を所有していて

中庭のような空間をいくつかの建物が寄り添いあいながら囲んでいて

中庭の2階部分にぐるりと外廊下みたいなのがつくってあって

その空中廊下みたいなのを通って親戚たちの住む別の家に行けるようになっていた。

不思議なつくりのその家には本当にわくわくさせられて

細い廊下を通って探検したい気分にかられたけれど

「ここから先はうちじゃないから行けないの」

と申し訳なさそうに彼女にいわれていつもがっかりしてた。

どうして彼女と疎遠になってしまったのかわからない。

あれほど素でいっしょにいられる友人なんていなかったのに。

そのあと3年間おなじ学校に通い続けたのに

卒業するころには話をするどころかあいさつさえあやしくなってた。

だから彼女が卒業後、どんな道を選んだのかも知らない。

卒業してから数か月後の週末、いつも通ってたレストランで

帰りがけに通りかかったテーブルに彼女が家族と座ってた。

「あっ」ってお互いいって

「こんにちは」とかろうじてあいさつをかわしたけどそれだけ。

近況を報告するわけでもなく

一緒にいたミーの友人たちを紹介するでもなく

彼女のご家族にあいさつするわけでもなく。

あのときのことをいまでも悔やんでる。

あのとき、ちゃんと、彼女と言葉を交わさなかったこと。

あれが、神さまがミーにくれた最後のチャンスだったのに。

数年後、夏休みで日本に帰国してたとき

どうしても彼女に会いたくなって彼女の家を訪れてみた。

そこはどこぞの建築家につくらせたのではってくらい

おどろくほどモダンでどでかい建物に新築されてて

やっぱり一族全員で暮らしてるみたいだった。

インターホンを鳴らしたら執事が出てきちゃいそうな豪邸で

ミーはひるんですごすごと帰ってきた。

でも本当は豪邸にひるんだんじゃない。

彼女に「いまさらなにしにきたの?」っていわれるのがこわかっただけ。

人生でこんな過ちを何十回となく繰り返してきて

指の間から大事な友情がさらさらと流れおちてくのを

みすみすと見逃してきてそのあとさんざん後悔して

その長続きさせられたかもしれないすべての友情のことを

ひとつだって忘れることなく思い起こしつづける。

それはまるで重い十字架のように永遠に背負ってく苦悩だ。

だからミーはいまは友人たちにいう

「もう離さないからね」って。

「どんなに離れて暮らしてたって、心はつながってるからね」って。

内心ぎょっとしてるかもしれない友人たちも

ミーの激熱ぶりはわかってるから「うん」とだけいって微笑んでる。

そうまぁこれは現在の物語。

ユー、もし会えるのなら会いたいよ。

いま、どんな本を読んでるのかきかせて。

 

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